私たちは、植物に焦点を当て、様々なストレス因子が植物のゲノム・ダイナミクスにどのような影響を与えるか、またストレスに対する応答について以下のような研究を行っています。

1、ストレス応答遺伝子の同定

私たちは、乾燥、暑さ、寒さ、塩分、病原菌などのストレスに対する植物の反応に関与する特定の遺伝子や遺伝的経路を同定することを目指しており、これらの遺伝子を理解することは、ストレスに強い作物の品種改良に役立ちます。

2、ストレス下におけるゲノムの安定性

ストレスが植物のゲノムの安定性にどのような影響を与えるかを探る。この研究には、ストレスに応答して遺伝子発現に影響を及ぼすDNA損傷・修復メカニズムやエピジェネティック修飾の研究などが含まれます。

3、ストレス適応の分子メカニズム

私たちは、植物がストレス環境に適応するための分子メカニズムを研究しており、この研究には、ストレス応答に関与するシグナル伝達経路、転写制御、翻訳後修飾の研究などが含まれます。

4、比較ゲノム学

異なる植物種や品種がストレスにどのように応答するかを理解するために、比較ゲノム研究を行っています。ストレス耐性植物とストレス感受性植物のゲノムを比較することにより、ストレス耐性に関連する遺伝的変異を同定することができます。

5、エピジェネティック制御

当研究室では、DNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティック修飾が、ストレスに応答してどのように遺伝子発現を制御するかを研究しています。エピジェネティックなメカニズムを理解することで、ストレスに対する植物の長期的な適応反応についての知見を得ることができます。

6、農業への応用

当研究室の研究成果は、育種プログラムや遺伝子工学的アプローチを通じて、ストレス耐性作物品種を開発するために農業に応用することができます。これにより、気候変動やその他の環境問題に直面しても、作物の生産性や回復力を高めることができます。

以上のように、私たちの研究室では、植物とそのストレス対処能力を分子レベルで研究することを専門としています。これらの研究は、植物の回復力と農業の持続可能性についての理解を深めるために不可欠です。この研究を通して、作物生産を改善するための実用的なアプリケーションを見つけることを目指しています。

環境ストレスとゲノム進化

ストレスは遺伝子やトランスポゾンの活性化に影響を与えることが報告されています。トランスポゾンは様々な生物に広く存在しゲノム構造の主たる構成要素となっており、このことは環境ストレスによって活性化されたトランスポゾン配列がゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果生物種に多様性を生み環境適応能力を獲得した個体を作り上げてきたと考えることができます。私たちは環境ストレスが植物に与える影響について「ゲノム構造の変化と環境適応」いう側面からアプローチし、実際にこの仮説を検証するために植物においてストレス条件下で活性化するようなトランスポゾンとそれを制御する宿主側の遺伝子の解析を行っています。

環境ストレスが植物に与える影響について「ゲノム構造の変化と環境適応」いう側面から研究を行っています。具体的には環境ストレスと植物ゲノム内に存在するトランスポゾン活性の制御機構の研究を行っています。生物界においてトランスポゾンはゲノム内の大部分を占める構成要素でありゲノム構造を変化させる強力な要素と考えられます。トランスポゾンの転移はゲノム進化の要因となるが宿主ゲノムにとっては有害となる場合が多いため現在までに報告されているほとんどのトランスポゾン配列はDNAのメチル化やヒストン修飾により活性が抑制されています。しかしながら自然界ではそれらのトランスポゾン配列は多くの生物種のゲノム内に広く拡散しており、いつどのようにして拡散したのかという疑問に対する明確な答えは得られていません。また遺伝子内や近傍に挿入されたトランスポゾンはその遺伝子の発現を変化させることが報告されています。これらのことからトランスポゾンはゲノム構造や遺伝子発現を変化させることで生物種の進化の大きな原動力となってきたと考えられます。環境ストレスは遺伝子やトランスポゾン配列のエピジェネティックな修飾に影響を与えることが報告されています。このことは、環境ストレスによって活性化されたトランスポゾン配列がゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果環境適応能力を獲得した個体を生み出してきたと考えることができます。この仮説を検証するため植物においてストレス条件下で活性化するようなトランスポゾンとそれを制御する遺伝子に焦点を当て研究しています。実際に環境ストレスにより活性化されるトランスポゾンがゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果ストレス耐性のある個体が得られればトランスポゾンが植物の環境適応に重要な役割を果たしているということを実証することができると考えています。

2011年3月13日 Natureに論文を発表しました。
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siRNAによるシロイヌナズナ熱活性型レトロトランスポゾンの世代間転移制御